OFFICE Santa 対談

平田オリザ×鈴木あきら 演劇ワークショップの切り開く未知の地平〜採用選考の新しい方法論〜

本当の意味の「個性尊重」

:フィンランドという国はとても個人主義的で、個性重視を高らかに謳っている国ですが、だからといって面白い発言をしたり、人と違うことをする子共が認められるわけではない。最も高い評価を得るのは、バラバラのインプットを一つのアウトプットにまとめ上げる力を持った子なんです。

:なるほど。日本で「個性尊重」というと、一人ひとりの個性を尊重するためには、アウトプットはバラバラであっても仕方ないんだと考えがちです。しかし、それは大きな間違いで、個性を尊重しなければならないのは、インプットの部分においてなんですね。

:そうです。インプットは各自の個性ですからトレーニングすることはできません。でも、アウトプットを一つにまとめることに関しては十分にトレーニングが可能なんです。ところが、日本にはこのトレーニングのシステムがない。

:確かにそうですね。

:それは、教える側に一定の訓練が必要だということもあると思います。実際、僕が小学校で演劇のワークショップをやると、必ず泣き出す子が出てくる。自分の言い分が通らないからです。自分はこんな風に進めたいのに、周りは自分の意見を受け入れてくれない。もう、ワァワァ泣きます。僕はこれはとてもいいことだと思います。だって、普段の家庭生活で自分の意見が通らないことなんてありませんからね(笑い)。それを経験できるのはとても貴重なことです。ところが、子供たちに泣き出されちゃうと、先生は困ってしまうんですね。そういうことに対する対処の仕方は訓練を受けていませんから。

:そんなとき、平田さんはどうするんですか?

:僕は、「悲しいねぇ。思った通りにならないねぇ。じゃあ、どうしようか」って言いながら、「取引」を教えます。

:「取引」、ですか?

:そうです。「取引」です。こんなこと、普通、小学校の授業ではなかなか教えられないんですけど(笑い)。まず、その泣いている子に、「自分のやりたいことを通すためには、誰を味方につければいいと思う? あの子か。だったら、あの子のやりたいことを君が応援するって言って、その代わりに君の意見も通るように応援してもらえば?」ってけしかけるんですね(笑い)。こういう「取引」は何だか「良くないこと」のように思われがちですが、でも、世の中に出たら、これができないとどうしようもないでしょ? 会社に入ってまず求められるのは、こうした能力ですよ。演劇というのは「役割」とコミュニケーションで成り立っている表現ですから、このようなスキルを身につけさせるためには最適で、だからヨーロッパ各国の教育には、必ず演劇が組み込まれているんです。

:とすれば、その演劇ワークショップは採用選考でも有効な気がしますね。

:有効です。実際に、僕がつくった演劇ワークショップで入試を行っている高校があるんですが、その効果と反響はすさまじいですよ。

:入試に演劇ワークショップを導入するというのは、ずいぶん思い切った高校ですね。

:最初は先生たちもみんな反対だったんです。演劇のワークショップなんかやったって、自分たちは評価ができない。受験生にいきなり「お芝居をしろ」って言ったって、みんなできるはずがない。まぁ、いろいろな反対意見が出ました。でも、いざやってみると、先生たちの反応は正反対になりましたね。「こんなに生徒のことがよくわかるテストはない」「このテストのおかげで、自分がどんな生徒を採りたいのかがよくわかった」っていうような意見が続出で、導入を否定する意見は一つもありませんでした。

:受験生の反応はどうだったんですか?

:受験生からも最大級の賛辞が寄せられました。「こんなに面白い試験は初めてだ」とか、「評価を素直に納得できた」とか、なかには「県内のすべての高校の入試をこの方法にすべきだ」というような意見もあって、こっちの方も否定的な意見は一つもありませんでしたね。

:「お芝居なんて恥ずかしい」というような反応があるかと思ったんですが、意外ですね。

:企業の入社試験でもグループ・ディスカッションや集団面接があるじゃないですか。それとほとんど変わりませんよ。

:まぁ、そうですね。

:今、グループ・ディスカッションも含めて、面接っていうのはほとんど有効じゃありませんよ。学生たちは面接マニュアルで徹底的に対策を練ってますし、訓練もできる。でも、演劇のワークショップは対策のとりようがない。自分たちの役割、関係の取り方、ストーリーの展開、それらを互いに討議し、意見を摺り合わせながら一つのアウトプットにまとめていかなければならないんです。その過程を見ていれば、誰がどんな役割をどのようにこなしているのかが手に取るようにわかる。こんな明白な選考方法はないと思いますよ。

:なるほど。では、次回はそのワークショップの具体的な展開まで話を進めたいと思います。

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